なぜそうなるか
相続した着物にも相続税はかかる?——国税庁は「金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」を相続財産とし、家庭用の動産は1個5万円以下なら一世帯ごとにまとめて評価できるとしていました
母や祖母が大切にしていた着物を、形見として受け継ぐ方は多いものです。箪笥ごと引き取ったものの、何枚あるのか、どれほどの品なのか、すぐには分からないこともあります。
相続の手続きを進めるうちに、預金や家と並んで、こうした着物も数に入るのかが気になってきます。家財道具のひとつとして見過ごしてよいのか、それとも1枚ずつ値段を付けて書き出す必要があるのか。
税理士に相談する前に、国の決まりがどう書かれているのかを自分の目で見ておきたい方もいるはずです。手元の品をどう扱うかを考える入口として、原文を読んでおく意味はありそうです。
そこで、国税庁のタックスアンサーのうち「相続税がかかる財産」と「相続税の計算」の2つを開きました。
あわせて、財産の値段の付け方を定めた財産評価基本通達から、動産を扱う第6章の節を読んでいます。記事の中の言い回しは、この4つのページの書き方のままです。
先にお断りしておくと、「着物」という語は、読んだ4つのページのどこにも出てきません。手元の着物がどの決まりに当たるかは、この記事では判断していません。買取の相場や、どこに売るのがよいかも扱いません。
・相続税がかかる財産は、金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの、と国税庁は書いている
・財産評価基本通達は、動産を原則として1個または1組ごとに評価するとしている
・家庭用動産などで1個または1組の価額が5万円以下のものは、一世帯ごとに一括して評価できる
・一般動産の評価は、売買実例価額や精通者意見価格等を参酌する
・遺産の額から差し引く基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」
着物は、相続税がかかる財産に入るの?
現金や家じゃなくて、身の回りの品も相続の財産になるの?
タックスアンサーの「No.4105 相続税がかかる財産」は、まず相続税が何にかかるのかを一文で示していました。
相続税は、原則として、死亡した人の財産を相続や遺贈(死因贈与を含みます。)によって取得した場合に、その取得した財産にかかります。
続けて、その「財産」が何を指すのかが、例とともに示されます。
例の中に着物は挙がっていません。ただ、例の並びは「など」で閉じられ、最後は「すべてのもの」で締めくくられていました。例に名前が無いことが、対象から外れることを意味するわけではない、という書き方です。この場合の財産とは、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいいます。
このページは、いつの決まりを書いているの?
ページの見出しの下には「令和8年4月1日現在法令等」とありました。この記事で読んだのは、その時点の書き方です。着物の値段は、どうやって決めるの?
1枚ずつ値段を付けないといけないの?
財産の値段の付け方をまとめたのが、財産評価基本通達です。第6章が動産で、その第1節「一般動産」の128が、評価の単位を決めていました。
動産(暖房装置、冷房装置、昇降装置、昇降設備、電気設備、給排水設備、消火設備、浴そう設備等で92≪附属設備等の評価≫の(1)から(3)まで及び132≪評価単位≫から136≪船舶の評価≫までの定めにより評価するものを除き、以下「一般動産」という。)の価額は、原則として、1個又は1組ごとに評価する。
同じ128には、ただし書きが続きます。
1個5万円以下の家庭用動産なら、一世帯ぶんをひとまとめに評価してよいという決まりです。反対に、1個または1組の価額が5万円を超えるものは、原則どおり1個ずつの評価になります。ただし、家庭用動産、農耕用動産、旅館用動産等で1個又は1組の価額が5万円以下のものについては、それぞれ一括して一世帯、一農家、一旅館等ごとに評価することができる。
値段の目安は、どこから取るの?
評価の方法は、すぐ後の129にありました。
実際に売り買いされた値段や、その品に詳しい人の意見を参考にするという順番です。129には、そうした値段が分からないときに、新品の小売価額から使った年数分の減価を差し引いて評価する、というただし書きもありました。一般動産の価額は、原則として、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する。
美術品のように扱われることはあるの?
通達の第6章には、一般動産とは別に、第4節「書画骨とう品」の135もありました。販売業者が持つもの以外の書画骨とう品については、次のように書かれています。
(1)に掲げる書画骨とう品以外の書画骨とう品の価額は、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する。
手元の着物が一般動産と書画骨とう品のどちらに当たるかは、通達の文からは読み取れませんでした。この記事では決めずにおきます。
相続税がかかるかどうかは、どこで分かれるの?
着物が財産に入るなら、必ず相続税を払うことになるの?
財産に入ることと、税がかかることは、別の段の話でした。タックスアンサーの「No.4152 相続税の計算」には、遺産の合計から基礎控除を引く式が載っていました。
差し引いた残りが、税の計算に進む「課税遺産総額」になります。着物を含めた遺産の合計が基礎控除の額に届くかどうかが、最初の分かれ目になる、という並びです。課税価格の合計額 - 基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数) = 課税遺産総額
ここからは当方の計算です。法定相続人が3人なら、基礎控除は3,000万円+600万円×3=4,800万円になります。法定相続人の数の数え方には、相続の放棄をした人や養子の扱いについての注があり、No.4152の本文で確かめる必要があります。
相続した着物を業者に見てもらうときに起きやすい相談は、着物の買取で貴金属を求められたときの国民生活センターの事例をまとめた記事に並べました。
この記事で確認したこと
・国税庁は、相続税がかかる財産を、金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの、と書いている
・財産評価基本通達は、一般動産を原則として1個または1組ごとに評価するとしている
・家庭用動産などで1個または1組の価額が5万円以下のものは、一世帯ごとに一括して評価できる
・一般動産の評価は、売買実例価額や精通者意見価格等を参酌する
・基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、遺産の合計から差し引く
着物が財産に入るかと、相続税がかかるかは、別の段の話です。遺産全体の見当をつけてから、基礎控除の式と並べてみてください。
よくある質問
着物は、国税庁のページに名前が出てきますか
読んだ4つのページには、「着物」という語はありませんでした。No.4105は財産の例を挙げたあと、「など」と「すべてのもの」で締めくくっています。
1枚5万円以下の着物は、評価しなくてよいのですか
通達128のただし書きは、評価しなくてよいとは書いていません。1個または1組5万円以下の家庭用動産を、一世帯ごとに「一括して」評価できる、という書き方でした。
売った着物の税金も、同じ決まりですか
この記事で読んだのは、相続したときの相続税と、財産の評価の決まりです。着物を売ったときの所得税の扱いは、別の決まりで、この記事では扱っていません。
この整理が変わる条件
- 国税庁のタックスアンサー No.4105・No.4152 の書き方が改められた場合
- 財産評価基本通達の128・129・135が改正された場合
- 相続税の基礎控除の額(3,000万円・600万円)が法改正で見直された場合
出典
- 国税庁 タックスアンサー「No.4105 相続税がかかる財産」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4105.htm
- 国税庁 タックスアンサー「No.4152 相続税の計算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
- 国税庁 財産評価基本通達 第6章 第1節「一般動産」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/06/01.htm
- 国税庁 財産評価基本通達 第6章 第2節〜第5節(第4節「書画骨とう品」) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/06/03.htm
手元の着物の扱いに迷ったときは、税務署の相談窓口や税理士に、この記事の出典を添えて尋ねてみてください。
当方が上の出典を引いて確かめた日: